アメリカ人の秘書レオナは、休暇でイタリアのベニスに向かう。水の都ベニスがかもし出す魔力にとりつかれて、彼女は恋に落ちる。お相手は地元に住む魅力的な中年のショップ・オーナー。彼の優しさに彼女のロマンスへの強い憧憬は羽を広げて大きくはばたく。
しかし、家庭の小さな幸福に満足する平凡な男であると彼から告げられ、レオナの希望は無残に砕かれる。旅先のアバンチュールとして刹那的にロマンスを楽しむことも彼女にはできたが、そのような関係には所詮は行き場がないことに気づく。それでも、誰も愛したことがないよりはましだと人は言うだろうか。
キャサリン・ヘップバーン主演の映画「旅情」の原作を基にしたストーリーは時代を超えて、複雑な心の奥ひだに甘く切ない記憶を刻印する。